谷川晃一さんトーク、まさにショー!

 

3月8日午後2じからの谷川晃一さんのお話会は、まさにトークショー。会場の笑いの波が高まるにつれて、谷川晃一さんの口調もどんどん滑らかになり、まさに「語り芸」の一時間半でした。

「きょうは幼稚ということについて思いついたことを話したい」と話ははじまり、中学生時代の話に。勉強はせず、部員ふたりの美術部にいたころ、美術の本を読みまくる。高校時代、一年の時は、ロカビリーにはまる。はまった友達たちはみんな固めたリーゼントをつぶさないよう学帽の上部をうすくうすく、ガーゼのようにする。それでも髪をつぶさないよう浮かした帽子を片手で押さえながら歩く。薄くなった帽子は代々下級生に贈られる。そんな日々。2年からはちょっと上のクラスへ。そこでのちに現代音楽家として活躍する小杉武久と親しくなる。彼からいろんな刺激をうける。家の事情で大学に進学せず、レストランでコックをし、いろんな仕事をする。だが孤独で刺激がない。そんな中、小杉が世界の音楽のアバンギャルドの動向や、ニューヨークのネオダダの台頭のことなど教えてくれる。その後自由美術展に入賞。のち読売アンデパンダンの動きに参加。その中で、赤瀬川原平、中西夏之、などに出会い、土方巽の現代舞踏の舞台を手伝ったりする。なにを手伝うのかと聞いても、よくわからない。水をいれたバケツを持っていろ、と言われわけがわからず持っている。重い。バケツからトゥトゥトゥトゥーと水がこぼれる。その音が舞台の音楽の代わりか、とあとでわかる。あるとき衣装をもってこいといわれる。そこで「かいまき」の布をはがして、着物の形をした綿を持っていく。それを着て土方が踊る。型がほどけ、綿だらけの人間が動き踊る。そんなこんなでいろいろなことをした。

この時代に出会った人はみんなおかしな人たちだった。怪人たちだった。そのあと会った井上洋介、長新太などの画家たちもおかしなひとたちだった。井上さんの奇人に会った話などはあとで考えるにどうもあれは、本人のことだったんじゃないかというような話だった。長新太さんの絵本『チョコレートパン』チョコレート池に入るパンたち。そこへぞう、りす、うさぎ、ねずみなどがはいってチョコレート色になるけど、パンしかだめっということになり、パンだけはいる。ナンセンスな世界。

こんなおかしなことを考えているおかしな人は大人なのに幼稚か? 幼稚な怪人たち。おもしろい怪人たち。おもしろいこと、おかしさを生み出す幼稚。自分も幼稚なとこがあってそこから絵本が生まれる。人は笑うことが大切。そこでご自分の句をいくつか披露。

股倉にチャック噛みつくカムチャッカ

赤毛のアンもんどりうってモンドリアン Etc

ほんとに、もう! あきれちゃう!―――と思いつつ、絶妙なことばの間合い、ひょうひょうとした谷川さんの語り口についつい笑ってしまうのです。文章でそのおもしろさが伝えられず残念ですが、ほんとに谷川さん、たくさん笑わせていただきました。「落語聞いてるみたい。今までで一番笑った」とは、ちいさなRちゃんのおかあさんの言。「ああ、おもしろかった!」と来てくださったみなさん、晴れ晴れとうれしそうでした。「うちにも怪人がひとり」とつぶやいて帰られたおくさんもいましたっけ。

1960年代の日本の反芸術ネオダダの時代の中をリアルタイムで通過しつつ、「反」に終わらず、おかしみの中に身を置くことで先にすすまれた谷川さんの、「大人のお話」は、豊かなスケールで私たちを包んでくれました。こんな豊かさが湯河原の小さなギャラリーの「飛ぶ魚」を満たしてくれたことを心からうれしく思います。そのあとのお電話で「すました美術館ではなくて、くつろぎの日常の中にあるギャラリーはいいねえ」と言っておられました。子どもが笑い、大人がくつろぐ、そんな「飛ぶ魚」でいたい、と改めて思いました。

今回も2階の子ども部屋でいねこ先生、六ちゃん先生、新しく加わった大学生のかりん先生が、子どもたちを迎えてくれました。ふたりの小さな女の子たちは女王さまのように大事にされてニコニコ顔。今度のお話会のときは、子どもがたくさんきてくれるといいな、といねこ先生からの伝言です。お話会のたびに二階で子どもと遊んでくれた六ちゃん先生は来月からいよいよ社会人。卒業おめでとう、そしてありがとう。仕事に慣れて、お休みが取れたら!また来てくださるそうです。待ってますね。

夜までいて、なかなか外へ出たくない4歳のAちゃんと絵本『おつきさま こんばんは』を読みました。それから「お月さま、いるかな」と外へ出て空を見上げたら、うっすら雲に隠れた丸い月がAちゃんにも「飛ぶ魚」にも「もうおやすみ」と言っているようでした。

 

ギャラリーカフェ飛ぶ魚

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