もうすぐ春

 この冬は寒くてほぼひと月も風邪をひいたりしていて、家でじっとしていることが多い日々でした。熱は出ず、声も出ず、鼻水が出る風邪だったので、図書館に行っては本を借りて、思い切り動けない分、本の中で遊びました。なんといっても「この人がいるなら、生きてるのはまだ楽しい」と思える同時代の作家、内田洋子の作品にであえたのは収穫でした。『カテリーナの旅支度』『ジーノの家』『ミラノの太陽シチリアの月』と3冊を続けて読んで、もっと読みたい、もっと書いてほしい、という気持ちで本を閉じました。イタリア在住30年の著者が、都会で、港町で、丘の上の村で、出会い、親しくまじわった人々のようすが、愛情をもってことばにとどめられていて、どの一遍も、味わいのある短編映画のようでした。BSのお気に入りの番組『イタリアの小さな村』を掘り下げて文章で描いたような世界です。かつて、向田邦子や武田百合子や、須賀敦子らが存命だったころ、リアルタイムで出版を待ち望んで読みふけっていたように、この内田洋子の本はこれからも読みたいです。

 あとはヤングアダルトもの。『ノーラ、十二歳の秋』(アニカ・トール 小峰書店)『希望のいる町』(ジョーン・バウア 作品社)『負けないパティシエガール』(ジョーン・バウア 小学館)どれも面白くて、とくにバウアのものは次も図書館に予約してしまいました。かなりの逆境(お母さん不在、とかお父さん不明、とか引っ越しとか、文字が読めない病気とか)にある少女たちが、いろんな年齢の人々と接しいっしょに暮らすうちに、希望をいだくにいたるサクセスストーリー。作者は料理好きに違いない。料理やお菓子作りが物語のキイになっていてそれもうれしい。メニューはいかにもアメリカだけど。風邪のときのさえない気分を吹き飛ばしてくれるYAでした。

 そのあと『スターバト・マーテル』(ティッツィアーノ・スカルパ 河出書房新社)は題名にひかれて読みました。この「スターバト・マーテル」(聖母讃歌)と題するペルゴレージの音楽が大好きだったからです。同名で、スカルラッティー、ロッシーニ、パレストリーナ、ドヴォルザークが作曲していることはあとで知りました。この小説は17世紀のヴェネツィアのピエタ養育院を舞台に、ヴァイオリンをひく才能と才気ある少女の独白でつづられ、赤毛の司祭ヴィヴァルディとの不思議で稀有なふれあいが後半に描かれます。外から隔離された養育院での彼女の心理劇。静かな沼のような彼女の内面に映るできごと。ずうっと低迷を促す作風。ドラマチックな「苦しみ」は描かれていないのに、底なしの苦悩の中にいる人間の姿。それを直視することも、人々が共に生きるうえで大切だと思います。それは自分の内奥を直視することにもつながるから。自分たちだけの安易な世界観に安住することはしたくない。ともあれ風邪のときよまなくてよかったと思った一冊でした。

 外を見れば華やかな熱海桜(?)が咲き、春はもうすぐだよ、と告げています。